コップンかーまくら。
–おれさ、山登りに誘われたんだ。
めずらしく頬に線を浮かべて話すかまくらがいた。
−最近運動してないから大丈夫かな〜
つづいて出た言葉には6月下旬のなんとも言えないけだるさが乗っかっていた。
山登りと聞くとじーちゃんばーちゃんの老後の運動や、サブカル系女子のミーハー登山装備に身を纏った姿が思い浮かばれる。
かく言うかまくらも特段なにかの登山用の装備をもっているわけもなく、近所に運動しにいく感覚で居た。
かまくらは怒った。
–これのどこが登山やねん。
怒るわけも理解できる。これは登山ではないからだ。
そこに広がる景色は山ではなく、岩場。

この登山という名の精神力と脚力を鍛える会はだれが音頭をとったのか。
–いや〜しんど!!もう帰りたい!!
少なくともお前だけはそれを言うな。
と、言葉にはせずただ行きどころのない怒りを登山靴ではない白いスニーカーの靴底に追いやったかまくら。
–いや、まだ始まったばっかりやん!
靴底に張り付いた怒りのチューイングガムが剥き出しの自然と自身の身体を離そうとしない。
友人に放つ言葉尻が次の呼吸にかき消される。
登山用のマップを開きながら進む。
進むというよりは死への恐怖から逃げている。
–今どの辺?
かまくらが聞く。
–今全体の4分の1かな〜
………。
もう2時間以上は歩いてる。
というよりは死にかけている。

この写真を見てこれを登山と表現する人がいるなら、一度頭の中を覗かせて欲しい。
いやいい。仲良くはなれなさそうだ。

この写真に映る山の輪郭を見て欲しい。
この目に映る山の輪郭をいまから自身の足で闊歩しないといけない。
いっそのことこのまま右に足をすべらせ、楽にしてくれないかな。
人生山あり谷ありなんて言うがここまで険しくはないはず。
山頂に着いた。いや、正確には
生きて着いた。だった。
山頂で食うじゃがりこロングは、町中華に並ぶ手軽さと安心感だ。
下山ルートは比較的楽だった。
というのも行き道と 比較して だが。
帰り道はロープがないと下れないような急勾配の泥道。
もうスニーカーの靴底がはがれてぱかぱか鳴っている。
6時間半。
人生で一番長い散歩が終わった。
あとから聞いた。誘ってきた友人は、この山に登るの初めてらしい。
初めて登る山に、素人二人。現地について険しさを知る。
無知の知とソクラテスは言ったが、これはソクラテスでも知らなかったはずだ。
「何人たりとも、登ったことのない山に、素人の面(つら)下げて誘うな。」
下山したら山頂付近で会ったお兄さんたちに再会した。
車の鍵を山頂に置いてきたそう。
これほどのバカを見たことがない。
もちろん、知識もないのに上級者の山に誘う奴のほうだ。
家に着いた
ボロボロの靴と今回の山登りに誘ってきた友人の連絡先を”ゴミ箱”に移し
湿布を身体中に貼り、寝床についた。
次の日の朝は意外と爽快だった。
いつも通り支度し、会社に行く。
いつも通り同僚に挨拶をし、上司に昨日の山登りの話をする。
–おはようございまーす!
昨日捨てたはずのゴミ箱からコイツは出勤してきやがった。
